今月の絵『エレベーターとはんてん』 by Ryu Itadani
エレベーターとはんてん
山が色付き、本格的な秋を迎える11月。朝晩はアウターが必要となる時季ですが、今回は自分のカラダと防寒着の「ちょうど良い関係」についてのお話です。
江戸から明治に元号が変わり、新しい日本のリーダーたちが大急ぎで近代化を進めていた1871(明治4)年に、アメリカ・サンフランシスコへ海を渡った「岩倉使節団」。幕末の混乱期に結んだ不平等条約の改正や、列強国の視察などが目的でしたが、なかにはこんな興味深いエピソードも。
歓迎ムードにわく現地。宿泊した豪華絢爛なグランドホテルで「ボーイに案内されるまま、数人の西洋人と一緒に小さな部屋に入れられ、ドキン、と吊り上げられた」という手記が残されています。それは建物の中を部屋が上下に移動するという驚きの「初エレベーター体験」でした。一団はその後ヨーロッパを周り、各国の産業や文化などをつぶさに視察していきます。
以来、自動車や鉄道や飛行機が象徴するように、私たちの移動手段はどんどん発展し、今日では電動アシスト付きの自転車が坂道をスイスイ。キックボードなどの電動モビリティがススーッと街中を走っています。
またエレベーターの仲間としてエスカレーターも大変な人気です。ともに利用者は立っているだけで良い、とても楽ちんな装置ですが、しばしば「階段派」を自称する、わざわざ階段を好んで使う人が居るように、健康でいるためには「適度にカラダも使う」ことが大切です。
防寒着の話に向かいましょう。夏は暑く、冬は寒いのはあたりまえですが、今は屋内であれば快適さを一年中コントロールできる時代になりました。それに比べ岩倉使節団がエレベーターにびっくりした明治以前の日本は「木と紙」でできた家屋がほとんどで、とても寒かったに違いありません。
まだ電気もガスもない当時の人々は、囲炉裏や火鉢で暖を取り、着物を重ね着するなどの工夫で寒さに耐えていました。ステテコドットコムの冬の定番品のひとつである「はんてん」は、そんな時代の町民たちの防寒着をルーツにしています。
本格的なダウンジャケットほどではありませんが、中綿が詰まったはんてんは冬の防寒着として充分なあたたかさを発揮してくれるだけでなく、「部屋でも外でも着ることができる」という他にはない魅力があります(ステテコみたい!)。
もちろん部屋でコートを着ても問題はありませんが、ちょっと違和感を覚えるかもしれません。その点、はんてんは部屋で気ままに着たり脱いだりできるだけでなく、ちょっとした外出もできてしまうボーダレスな防寒着。この「内外兼用」のイメージはとても不思議です。
また「半纏」と書くはんてんは、半分くらいの長さの袖を纏う(まとう)という意味からきており、この場合、半分というのは何かが「不足」しているのではなく、「余地」を残していると考えるべきだと思われます(手もとが動かしやすいですし)。
つまりあたためる機能が不十分なのではなく、もともと人間に備わった力を使うための半分であり、「適度にカラダも使う」ことが自ずとできてしまう、なかなか健康的なデザインだということもできます。
暮らしを楽ちん・快適にしてくれる商品や道具がたくさんある今だからこそ、カラダ本来の力を使ってエネルギー資源に頼り過ぎないという意味でも、はんてんのような「半分のよさ」が大事なのではないかと思えるのです。