2月の絵 「 Risshun_Usui 」 by Ryu Itadani
石田紀佳さんにお聞きする旧暦生活のススメ
前回 知っているようで詳しくは知らなかった旧暦について調べているうちに、現代において実際に旧暦を意識して生活をされている方にその魅力などについて話を伺ってみたくなった私たちステテコドットコムは旧暦に関連した本も執筆されていて、キュレーター・手仕事研究家として活躍されている石田紀佳さんにお話を伺う機会を頂きました。
石田紀佳氏(キュレーター、手仕事研究家) 1965年生まれ。東京芸術大学美術学部卒業。企業の製品企画部門などを経て、フリーランスのキュレーターに。展覧会企画、執筆、手仕事の材料となる植物の育成を通して、美術手工芸品を紹介している。東京の自宅と神奈川県の里山とを往復し、 半自給自足の暮らしをしながら、「自然と人と技術」について実践考察中。植栽プランに、ニッケコルトンプラザ「手仕事の庭」、かぐれ表参道店「街野原」、世田谷ものづくり学校の「巡る庭」など。旧環境省のエコロジー教育のためのサイト(現EICネット)「この指とまれエコキッズ」のコンテンツ執筆。著書に『藍から青へ 自然の産物と手工芸』(建築資料研究社)、『草木と手仕事』(薫風堂)、『魔女入門 暮らしをたのしくする七十二候の手仕事』(すばる舎)、2021年5月、肌で季節を感じる「エコロジカルスキンケア」出版予定。
以下 石田紀佳さん=石田 ステテコ研究所所長=ステテコ
今日はお時間いただいてありがとうございます!早速ですが、石田さんがもともと旧暦を意識した生活をはじめることになったきっかけは何だったのでしょうか?
ステテコ
石田
私は植物と日本の古い行事の関係に興味を持っていたのですが、日本のお節供(おせっく)という行事には、必ず植物がでてきますよね?例えば3月なら桃の節供。でも実際には3月にはあまり桃が咲いてなくて、もう少しあとになって咲いてくる。そのズレは何だろうな?って疑問に思ったのがきっかけですね。他にも、詩とか短歌・俳句を読むのも好きなのですが、やはり季語と季節のズレがあって、それも何でかな?というのがあって。そこで「旧暦」が浮かんできて、旧暦でみていくとズレがなく、合ってきたんです。
なるほど、そういうきっかけがあったんですね。
ステテコ
石田
あと月の満ち欠けにも興味があって。月の満ち欠けによって特に女性は影響を受けるって言われているんですけど、旧暦では1日は必ず新月で、晦日はかならず新月に近いし、十五日は必ず十五夜だったんですね。言ってみれば空がカレンダーという感じで。
なるほど、空がカレンダーですか!ところで、石田さんの著書 「魔女入門 暮らしをたのしくする七十二候の手仕事」を拝読して知ったのですが、七十二候というのはこれまでも変更されているそうですね?
ステテコ
石田
そうなんです。二十四節気の考えは古代中国で発明されたものですが、二十四節気は中国でも基本的にはずっと変わらない。でも七十二候は中国でも多少変わってますし、日本でも中国から入ってきたものをそのままではなくて、江戸時代に日本ならではのものにいくつか変えられています。例えば冬至に近い頃の「虎はじめてまじわる」というのが虎が日本にいないので「熊穴にこもる」に変えられたり、とか。そして、明治時代になってからも変えられて今に至っています。ですので七十二候に決定版はありません。
七十二候はもともとどういう風に生まれたものなのでしょうか?
ステテコ
石田
実は七十二候は二十四節気よりもっと古いものから始まっているんです。紀元前に中国で編纂された世界最古の詩集「誌経」に出ていた言葉にすでに七十二候につながる言葉がでてきているんです。お月さまをみていたら29日の周期はわかるけど季節はわからない。そこで「あの山の雪が融けだしてきたらそろそろ種をまいてもいい」とかそういう感じのうたにちかいものが中国に残っていて、それはもう旧暦というより、自然の風物をみて暦を知る「自然暦(しぜんこよみ)」っていう言いかたをします。私たちが太陽の周りをまわっているということもわからなかった時代の言葉。それが七十二候のもとの言葉になっています。そのあと、科学的に観測ができるようになってみて二十四節気ができ、それに七十二候を当てはめていったという流れなんです。
そういうことなんですね。ところで石田さんが感じていらっしゃる、旧暦を意識した生活の魅了とはどういうところでしょうか?
ステテコ
石田
「旧暦」というとなんだか古いものみたいですけど、じつは今の時代に私たちにとって大切な、新しいことでもあると思うんです。旧暦ではなくて「今暦」というか。
今暦ですか!
ステテコ
石田
はい。例えば現代の暦だと月日は数字だけでしかないですけど、旧暦では季節に言葉があって、季節に風物があるから、「実際はどうかな?」という視点で自然を肌で感じる為のヒントになります。例えば立秋を過ぎた頃にある「綿のはなしべ開く」だったら「あ、こういう季節に綿がひらくんだ!」っていう発見が私にとってはすごく面白くて。また、二十四節気、七十二候は少し季節を先取りしたものが多いので季節への備えができる、というのも魅力です。植物と言葉が合わさっていて、優雅ですよね。気持ちにゆとりを持たせてくれると思うんです。
自然豊かな田舎に住んでなくても、都会でも意識したらできますかね?
ステテコ
石田
むしろ都会のほうがそういう言葉を意識することに価値があるんじゃないでしょうか?田舎はまわりに豊かな自然があるので、あえて意識しなくてもいいですけど、都会に住んでいる人こそ、古代から受け継がれてきている言葉をヒントにすることで、自然に意識を向けて、季節を実際に肌で感じてみることができると思いますよ。
これから旧暦を意識した生活をはじめるにあたってオススメの方法ってありますか?
ステテコ
石田
今は旧暦のカレンダーも色々と出ていますし、ネットでも知ることができますので、まずは「今日は旧暦では何の日だろうな?」って感じで時折みてみるのが第一歩だと思います。そして、空をみて月の満ち欠けをみてみる。都会でもどこでも月は見れますからね。
石田さんがお仲間と一緒につくられている「草暦」というカレンダーもわかりやすくて、みていると面白いですね。
ステテコ
石田
あと、おすすめは出来るだけ季節に逆らわずに暮らす、ということですかね。そういう意味では極力冷房を使わずに夏はステテコというのが旧暦生活の入門としてはいいんじゃないですか?季節の感じかたが全然違うと思いますよ。
ありがとうございます(笑)でも、手前味噌な話になってしまいますが確かに季節を肌で感じるという意味では本当ステテコは相性が良いかなと思いますね。最後に何かステテコユーザーの方に向けたメッセージありましたら是非。
ステテコ
石田
旧暦というと「日本文化」みたいに書かれることもありますが、もともと中国からきていますし、地球上の色々な風土をそれぞれ尊重していくという立場での旧暦だと思っています。中国の二十四節気の考え方が2016年にユネスコの世界無形文化遺産に登録されました。二十四節気の英訳は「the twenty-four solar terms」ですが、どこか未来的な響きだと思いませんか?これは中華文化圏のものでもなく、日本のものでもなく、人類の文化遺産です。なんせ天体という宇宙規模でのコンセプトなので本来、世界中の人が意識して良いことですよね。旧暦をきっかけに、変化する自然を宇宙規模でとらえ、お互いの自然・文化を尊重する澄んだ感性知性が育まれていくと嬉しいですね。
お陰様で旧暦を良い具合に取り入れていけそうな気がします。本日はとても素敵なお話をありがとうございました!
ステテコ