夜鳴きうどん(月刊ステテコ11月号)

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@Ryu Itadani
@Ryu Itadani

今月の絵『うどんの屋台』 by Ryu Itadani

夜鳴きうどん(月刊ステテコ10月号)

 秋も深まってすっかり夜が長くなりました。学校や職場から帰り、一日の疲れを癒す。そんな私的な時間が好きだという方も多いのではないでしょうか。暦の上では立冬にあたるこの時季、ひと昔前の日本各地の街頭に、夜になるとどこからともなく聞こえてくる笛の音がありました。その出元は街頭を流す「屋台」でした。

 江戸時代から昭和にかけて、握り寿司や天ぷらにはじまり、おでんや焼き鳥など、路上の屋台ではさまざまな庶民の味が売られていました。今でも各地の博物館や郷土資料館へ足を運べば、移りゆく時代の中、街頭の屋台に群がる人々の生き生きとした様子を見ることができるでしょう。

 また屋台といっても、地域によってその特色はさまざまでした。とりわけ「麺」を扱う屋台では「東のそば、西のうどん」と今でもいうように、江戸(関東)は「夜鷹そば」や「風鈴そば」が好まれたのに対し、京・大阪では「夜鳴きうどん」というのが一般的でした。ちなみに現代人にとってお酒を飲んだ後の「締め」として定番のラーメンが屋台に登場するのは、もう少し経ってからの1920年代だったそうです。

 それにしても味わい深いネーミングの「夜鳴きうどん」。

 現在の暮らしでは、もうなかなか屋台の主人が吹く笛の音を聴く機会がなくなってしまいましたが、もともとは江戸時代に中国から伝来した「チャルメラ」というオーボエのような木管楽器が吹かれていたのだそうです。ある意味では笛の音が聞こえるくらい夜の生活環境が静かだったということですが、どこからともなく聞こえてくるその音を想像してみると、時々はそういう夜の過ごし方もいいなと思えてきませんか。

 ひっそりと冷えた闇が忍び寄る秋の夜。屋台の主人の吹く笛の音にピピっと食欲が反応し、刺激され、ふらふらと引き寄せられる。するすると体内に取り込まれたうどんは、じわじわと心と身体を内側から温め、明日を生きる力となる。

 食に関するサービスがどんどん便利になる一方で、空腹を満たす行為には、こうした素朴な風情や時間の過ごし方というのも変わらずにあっていいのかもしれませんね。

 steteco.comのオンランショップに並んだ秋冬シーズンのウェアたちも、それぞれが「夜鳴きうどん」のように、これから向かえる寒い夜に心強い存在になってくれるはずです。それでは風邪などひかれませんように、今月も健やかにお過ごしください。

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