今月の絵『国東(クニサキ)半島』 by Ryu Itadani
国東のオニ
日本には、春を迎える季節の変わり目としての節分に、「オニハソトーフクハウチー」と叫んで豆をまき、邪鬼を祓うという古くからの風習がありますが、ステテコドットコムの自社工場がある大分県の国東半島では、いささか事情が異なります。
九州から瀬戸内海に向かって円形に突き出た国東半島。険しい岩峰が連なる山塊は、半島の最高峰である二子山(ふたこやま:720m)を中心に谷ごとに6つの「郷(ごう)」に分けられ、およそ60ヶ所ある寺院群を総称して「六郷満山(ろくごうまんざん)」と呼ばれます。そこは古代から「オニ」が棲む異界との境界だと信じられ、オニにまつわるさまざまな伝説が現在に語り継がれてきました。
一般的にオニというのは、その多くが災いをもたらす恐ろしい存在だとされていますが、しかし国東のオニはそうではなく、人々に幸せを届けてくれる神さまとして親しまれています。六郷満山にある各お寺では古くから表情豊かな鬼会面(おにえめん)を作って祭祀に用い、人々からの願いを叶えてきました。
中でも毎年この時期に行われる「修正鬼会(しゅじょうおにえ)」という火祭りは、オニがたいまつを持って堂内を暴れ回ったり、お寺を出て集落へ繰り出し人々と酒を飲み交わしたりしながら厄を祓い、無病息災や五穀豊穣を祈願する1300年もつづく伝統行事です。かつては六郷満山の多くの寺院で行われていましたが、後継者不足などもあって現在では国東市の「岩戸寺」と「成仏寺」、豊後高田市の「天念寺」の3ヶ所でのみ継承されています。
猛々しく舞うオニの姿は怖いけどありがたい。飛んでくる火の粉も危なっかしいけれどやっぱりありがたい。そんな体験をしてみたいと、祭りの日には日本各地からたくさんの参拝者が集まるのだそう。
岩戸寺と成仏寺では1年ずつ交代での開催だったり、天念寺ではオニが堂内から出なかったりと、多少の違いはあるものの、いずれにしてもオニは悪鬼ではなく、祖先が姿を変えて現れる祖霊神だと信じられ、人々はみな歓待の気持ちでこの日を待ち侘びます。そんな国東半島独自の物語は2018年に「日本遺産」として認定されました。
もしかしたら、ステテコドットコムの国東工場からみなさんのお手元に届く製品にも、六郷満山のオニたちがささやかな福を込めてくれているかもしれません。オニさん、いつもありがとうございます。これからも末永く、国東(と世界)の人々に福を届けてくださいますように。
みなさま健やかな2月をお過ごしください。